牧嶋 平

MAKISHIMA Osamu

牧嶋 平

埼玉県出身、京都府在住。西へ西へ。
町にまぎれながら、旅になじませながら、抽斗をひっくり返してはまた詰め込むの日々。

  • 今までの作品について

    これまでの活動では様々な土地の取材を行い、主に彫刻、映像、パフォーマンスからなるインスタレーションを制作してきました。その取材は実地と文献の調査を伴いながらも、自身と環境との緩やかな擦り合わせに重きを置いた感覚的なものでした。つまり、対象となる土地の固有性を表現するためではなく、自身の問題意識(制作テーマ)にアクセスする手段として調査を行ってきました。日常とは異なる環境に自らを晒しながら、存在(生)がより広い時間と空間に帰納されていくイメージの作品化を目指しています。

  • 今回のリサーチテーマ

    滞在以前の調査計画では、<茶畑の地理的特徴>と<林業や民俗芸能の身体性>をリサーチテーマに挙げていました。しかし実際の滞在ではそれ以外にも多くの発見があり、事前のテーマ設定にこだわらず、好奇心に素直に反応していきました。結果的に以下の3項目を中心とした調査になりました。

    <道をめぐって-恭仁京東北道、木津川水運、そして現代の峠道>

    和束町の概要をより広い視点で把握するため、周辺地域と和束町を結ぶ道に着目して調査を始めました。天平時代に恭仁京(京都府木津川市)と紫香楽宮(滋賀県甲賀市)を結んだ恭仁京東北道や、近代まで材木や穀類の流通経路であった木津川水運の名残りを探しながら、町内外を繋ぐ峠道や農道を訪れました。そこから四方を低層の山が囲む地理的特徴、人やモノが流れた歴史的背景、山を生業の場とした産業の変遷が身体的に見えてきました。一方で、恭仁京東北道や木津川水運のかつての様子を想像させるほどの手応えはなく、一部の峠道や農道は植物が繁り、廃れつつありました。道をめぐるこの状況から、人と自然の平衡関係、そしてその崩壊というテーマが現れてきました。

    <獣をめぐって-狩猟および有害捕獲>

    今回の滞在における一番の発見は、精肉店の店先に掛けられた数体の獣の毛皮です。この毛皮は精肉店で解体された猪のもので、店の看板のひとつとして設置されています。この宣伝方法は直接的すぎるため不遜とも受け取られかねませんが、表現としての強さと正しさがあり、獣の猛々しさと合わせ、自身の作品や制作姿勢に最も必要なものとして映りました。和束町内では猪、鹿、猿による農業被害が頻出しており、その対策として野生動物が有害捕獲されています。一方で、冬季には趣味としての狩猟も行われています。害獣被害を受けている住民、有害捕獲の行政担当者、獣肉を扱う精肉店、精肉店へ獣を卸す猟友会員と、獣をめぐり多様な立場と態度を見ることができました。そして調査を通して様々な人と出会う中、アートプロジェクトの名目で地域を訪れる自身(アーティスト)もまた「獣」であると思い至りました。

    <生活をめぐって-谷間狭小地に暮らす心象>

    滞在先の湯船地区は、山が迫る谷間の狭小地に発達した集落で、昭和初期まで林業と茶産業が盛んに行われた地域です。滞在期間中に和束町を離れることがあり、木津川沿いに谷から平野へ向かいましたが、その道中には予想外の解放感があり、私は湯船地区の地理的環境から無意識のうちに圧迫感を受けていたことに気がつきました。そしてこの狭隘な土地で生きた人の心象を知る手掛かりとして、さらには道や獣という社会的事象とは異なる私的な眼差しを得るきっかけとして、湯船地区の住民が遺した俳句や短歌を探しました。結果的にはすでに故人となられた男性の 日記を拝見する機会を得ましたが、参加アーティストのソ・ユジンさんの協力もあり、湯船地区に暮らす高齢女性の人生や生活を知ることもできました。

  • コミュニケーションについて

    取材の対象者が公職にあたる方の場合、取材を行う場所や時間、さらには取材の必要性も含め、慎重な配慮が必要であることを反省的に学びました。また住民同士のつながりが強いこともあり、多くの場面で人の紹介が円滑に働きました。

  • ハプニング

    作品を成立させるための「答え(根拠)」を少なからず想定して取材を行っていました。そのため予想とは異なる資料や発言を得た際には、その内容を受け入れていくことに多少時間がかかりました。

  • 今後の展開

    今回の滞在ではその時々の関心に素直に反応しながら調査を行うことができ、今後の制作の可能性を広げる機会となりました。そして<道>、<獣>、<生活>を軸にしながらも、結果的にはすべて<人と自然の関係性>について調査をしていたことが見えてきました。(具体例として、ある峠道は今も生活道として十分に機能しながら、またある農道は土砂や植物で覆われ森に戻りつつあります。獣と人の緩衝帯は揺らいでおり、民家や畑地に現れた野生動物は、庭や農作物を荒らしては捕獲されています。さらに湯船地区に暮らす人の生活も、土地を離れた人の選択も、山を生業とした産業の変遷と深く関わっています。)今後はこの<人と自然の関係性>に着目し、その多様なあり方について思考を深めていきたいと考えています。それは人と自然が対立し続ける単純明快な関係ではなく、調和と緊張を伴いながら、状況に即して変化を続けるしなやかなものであると想像します。そこでは人と自然の概念すらも曖昧に揺らぎ、それらが入れ替わることさえあるかもしれません。
    今後の制作に向けて、まずは取材や調査を意識しない状態で土地に入ることを考えています。具体的には和束町で開催されている森林整備ボランティアへの参加、そして狩猟免許の取得を計画しています。これらの取り組みを通して、山林における身体知を深めていきたいと思います。

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