日吉ダム(一九九八年完成)の建設で水没した集落と新たに誕生した湖、天若湖。二〇〇五年よりはじまった天若湖アートプロジェクトは、かつてそこに存在していた村、村を知らない人、下流の都市で生活する人など、桂川上流の山村と下流の都市の新たなつながりをテーマに、二〇〇五年度から毎年行われているアートプロジェクトだ。この活動のなかでも、水没した集落の家々のあかりを湖面に再現しようという「あかりがつなぐ記憶」は、今や天若湖の夏の風物詩として定着しつつあるプログラムとなった。毎年、八月の二晩だけダム湖面にはかつてそこにあった五集落(約百二十戸)の灯りが浮かび、幻想的な風景が出現する。 ひとりの学生のアイディアからはじまったというこのプロジェクトには、桂川流域のNPO、アートNPO、行政、大学、そして水没移転者、ダム管理所など、さまざまな立場の人達が関わっている。
 この運営を行うNPO法人アートプランまぜまぜ理事長、さとうひさゑさんは言う。「桂川流域とひとことで言っても、上流に住んでいるか下流に住んでいるかで、ダムや川に対する人々の考え方や関わり方も全く異なるし様々です。「あかりがつなぐ記憶」には、そこに現われた風景をそれぞれの人が見て、感じる、という、ただただシンプルな共感から新たな交流が生まれていく可能性を感じています。言葉だけでは分かり合えなかったり、すれちがう思いが、風景とアートを通じてつながり、それぞれの立場について、または川について考える機会を生み出している。ここにアートの力を感じるし、これからも流域や地域をつなげるツールになればと思っています。」

大京都アーカイブ