SHINTAI ZERO BASE UNYOHO / ANDO Ryuichiro

身体0ベース運用法 / 安藤 隆一郎

2009年京都市立芸術大学染織専攻修士課程修了。
2016年より、作品の制作を通じて得た身体感覚や思想を発展させ、身体の使い方を0(ゼロ)から見直すための実践《身体0ベース運用法》を考案、体験型インスタレーションの制作、発表やワークショップなどをおこなっている。
https://www.shintai-0-base.com

  • 今までの作品について

    人が日常的に行う「歩く」「坐る」「叩く」などの基本的な身体運動に「もの ・こと」を関わらせることによって、人間が本来持っていた身体能力を再発見し、それらをトレーニングするための装置の展示やワークショップをおこなっています。

    日常的な運動を応用した様々なトレーニングを考案、実践していると、しばしば昔ながらの「道具+身体」の所作(もしくは、身のこなし)へと繋がります。例えば、単純な運動に物を関わらせる《身体0ベース運用法:物編》のトレーニングには、長棒を肩に担いで走るというものがあるのですが、実際にやってみると自然と昔の飛脚のような棒の持ち方になります。これによりこれまで形として知っていた昔の人の身体操作の原理を、身体で認識することができます。このように、伝統的な人間の生活文化にと共にある身体技法を再発見していくことで、これからの私たちの身体がどのようにあるべきか考えています。

  • 今回のリサーチテーマ

    亀岡を流れる大堰川は、京都市出身の私にとっては桂川として親しみのある川ですが、この大堰川に物流の長い歴史があるということは知りませんでした。

    かつて大堰川では、上流部の丹波から伐採した大量の木材を、筏流しで京へと輸送していました。それらの木材は、建築資材として京の町の発展を支えたほか、京都嵯峨の天龍寺や臨川寺、さらには大阪城、伏見城にも使われました。また、この筏流しによる水運は、木材だけでなく穀物や薪炭などの生活に必要な物資も流通させていました。 しかし、長い時間をかけて発展してきたこの文化も、山陰線の開通やトラック運送などの陸路の発達により1950年代でその幕を閉じることになります。現在は、観光船「保津川下り」としてのみ受け継がれています。

    この筏流しについて、当時を知る人に会って話を聞いたり資料を調べて行くと、そこに多くの職人(スペシャリスト)が携わっていたことが分かってきました。山に入り木を伐り出す「山師」がいて、伐り出された木材を山から川へと運ぶ「木馬師(きんまし)」がいました。そして、川では集められた大量の木材を川下へと運ぶ「筏師」がいました。さらに、それぞれ山では大量の木材を木馬に乗せて運ぶための「木馬道」を作る仕事や、川では筏が通るための「川作」という運搬路作りも行われていました。

    この文化を、私の身体を介して読み解いて行くことで、どんなことができるのか?役目を終え、失われつつある文化であり、さらに高度で専門的な技術を必要とするため、それを復活させ体験することには高いハードルがあります。しかし、これをクリアしていくことで《身体0ベース運用法》は新しい展開を迎えることができるのではないかと思います。

    そのためにも、この「山と川を繋ぐ壮大な物流の物語」に深く関わっていた師を見つけ、弟子入り(直に観察、体験する)することを目指しています。

  • コミュニケーションについて

    2週間という限られた期間内でのリサーチということもあり、早い段階でテーマを見つけたいと思っていました。そうすることで、そのテーマに沿ったコミュニケーションを確実に積み重ねていくことができると考えたからです。いつもなら散歩をして出会ったお婆さんと立ち話をしたりしながらテーマになりそうなものを拾って行くのですが、今回は敢えてそういった行動はしないようにしました。

    リサーチ初日に訪れた亀岡市文化資料館の鵜飼館長に、自分のこれまでの活動と「昔の農具や運搬具について当時を知る人から学びたい」と伝えると「亀岡の寒天作り」と「大堰川の筏流し」の資料を提示していただくことができました。その資料を見ると事前に私がテーマにしようとしていたものよりも亀岡の地域の特性を感じ、この2つをリサーチすることに決めました。

    寒天作りのリサーチでは、鵜飼さんに当時の職人の方に連絡を取ってもらい、その方が住んでいる綾部市まで会いに行くことになりました。その日までに、資料を熟読したり、元寒天工場跡を訪れて寒天の生産に適した土地環境を肌で感じるなど事前準備を行いました。 また、訪問の主な目的は話を「聞く」ことだけではなく、寒天作りの道具の扱い方を「見る」「(身体で)知る」ことだったので、資料館から道具も用意していただきました。

    それらの道具や映像資料を見ながら、職人の方々に聞き取りをしていくと昔使用していた木製の「フネ」やトコロテン汁を切る「マンガ」など様々な道具が職人さんの家から出てきて、目の前でそれぞれの動きが繰り広げられていきました。そして、私も同じように道具に触れながら確認していったことで具体的に「知る」ことができた貴重な体験となりました。

    職人の方々はどなたも高齢のため、こうやって話を聞くことができるのはあと何回あるのかわからない状況です。この寒天以外にも今よりも道具と身体が密接に関わっていた時代の他の多くの文化も同じです。今回、知ることができたのは道具の扱い方だけでしたが、次回は実際に当時の工場跡で再現するなどしてみたいと考えています。そのためには準備や設定が大切だと今回のリサーチを通して改めて実感しました。

  • ハプニング

    滞在9日目の午前中。山師の野原さんからお借りしたトビ(丸太を扱う道具)のトレーニングを、保津川沿いの大ケ谷林産でしていると大ケ谷さんを訪ねて来た方が「そんなとこでやるんやったら石こととかが転がってる山でやった方が良い。ウチの山に来たら良いよ。」と声をかけてくださいました。「山でやってみたいなぁ」とも思っていたので、「是非!!」と即答し早速その日の午後に連れて行ってもらうことになりました。

    連れて行ってくださった桂さんの山は、レジデンスで滞在している保津町の裏側にあたるところで、昨年の台風の影響で倒木がひどい状態でした。桂さんが倒れかけた木を伐採している横で私は斜面に転がっている伐採済みの丸太をトビで落ちないように整理していきました。やはり、山の不安定な斜面で道具を扱うと感覚が全く違うので発見が沢山あり、夢中で作業を行いました。

    桂さんはどちらかというと口数の少ない方ですが、時々する会話や佇まいから山に対する思いなどが感じ取られました。「山に来たくなったらいつでもおいで」と言ってくれたのが嬉しく、家の前に車が停まっている時は訪ねたりしました。

    伐り倒した檜を使って、後日、大ケ谷さんが製材の様子を見せてくださいました。少しずつ切っていくことでどの年代で枝打ちがされたのか、木が傷付くと中がどのように腐るかなど、ただ製材するだけではなく、木の解剖学とでも呼べる様々な知識を教えてくださいました。普段ホームセンターや材木屋で木材を買っていますが、製材される前のことは知らなかったので、「最近木材高いなー」といつも良く思ってしいますが、知ったことによって木材に対する見方が大きく変わりました。

    トビの練習からここまで広がるとは思っておらず、とても良い経験をさせてもらいました。

  • 今後の展開

    山 カラ 川 ヘト 物流 スル 身体 ノ 弟子 ニ 入 ル

    今回出会った山や川に携わる方々の仕事に「弟子」としてできるだけ同行しながら、その文化を身体的に理解していきたいと思っています。それを軸にしばらくは活動を進めていきながら、さらに上流域の丹波林業や筏の終着地点であった嵐山から市内に木材を運んでいた西高瀬川についても、フィールドを広げながら全体の物語を繋いでいきます。単に過去の文化を掘り起こすだけでなく、過去の物流に関わる身体を知ることで合理化されていく社会の中で私たちの身体はどのような物語を紡いでいくことができるのか。人間の在るべき形について考えを深めていくことができると考えています。

    レジデンス終了後、またすぐに亀岡に通い始めました。先日は山師の野原さんに弟子入りも果たしました。まだまだ目で観察したり雑用をお手伝いするぐらいですが、見ているだけでも歳を感じさせない足捌き、腰使いや積み重ねられた知恵を知ることができます。伐った木や周りにあるものをちょっと手を加えるだけで道具として巧みに使っていくことやテコの原理をうまく使って丸太を移動させる技術には驚かされます。

    筏流しの本場である吉野で育ち、子供の頃から筏に乗っていた野原さん。その仕事ぶりを見て「若い職人さん任せられる人はなかなかいない」と地主さんが言っていたのが印象的でした。今回おられた最高齢の山師さんは87歳でしたが、若い時はどんな動きをしていたのか想像するだけでもワクワクします。

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