
YUKAWA Nakayasu
Yukawa- Nakayasu
1981年大阪府生まれ。歴史や習俗や習慣をもとに、社会や身体、日常に内在している営為や現象を視覚化する作品を制作。2018年にThe 12th ArteLaguna Prize大賞受賞(Arsenale, ヴェネツィア)、2017 年に『Japanese Connections』(Nikolaj Kunsthal, コペンハーゲン)など。近年では、2019年からアートハブTRA-TRAVELの共同代表を務め、2020 年『ポストLCC時代の』(京都芸術センター)のキュレーションを手がける。
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未開地のアフォーダンス
Yukawa-Nakayasu(以下,Y-N)は、和束町の山岳信仰から「自然と人工物の境界」に着目し、「滝行をおこなえる未開地」を出現させた。本作は、Y-Nの鷲峰山でのフィールドワークを追体験するかのように、3階建の倉庫を回遊し作品に遭遇する体験をもたらす。また展示共有した嶋田晃士との協働は、展示空間で両者の作品を分断することなく、静かな共鳴を生み出していた。
この鑑賞プロセスは、鷲峰山の修行場にある「御光ノ滝」が描かれた作品を、暖簾風に分けいる越境体験から始まる。 その先では、自生の茶の写真、化学肥料を結晶化させたエッチング作品、そして茶畑の石垣を模した彫刻が展示されている。それらに共通する意匠「人の管理から外れた自生の茶」は、和束町の茶業とあいまり、「自然の状態(あるがままの状態)とは何か」と、私たちの既成概念 に疑問を投げかけてくる。そして作品の中核をなす、町内の自然物(石、土、水)を倉庫内に再構成した人工の滝は、製茶の機械音が鳴り響くなか会場内を循環する。自然と人工物がハイブリットされた未知なる空間は、言葉で表現する前に、鑑賞者の感情をかき立てていた。
2階にある「岩石を粉砕し建材を生産する砕石場風景」のエッチング作品は、その場所から俯瞰できる人工の滝と「土地の開拓」を緩やかにつなげる。また倉庫の頂上では、自然石に「滝が流れる山水画のように化学肥料を結晶化させた彫刻」が、展示全体ひいては和束町の山岳に見立てられている。
本作は、自然と人工物がハイブリットし未知の領域を限りなく開拓しつづける社会の流れに、私たちがいることを示唆する。この流れの中、心身ともに粗野な感情をかきたてる境界や未開の地はどこにあるのだろうか?本作が既成概念や価値基準を融解し、私たちの内なる野生を明滅させるキッカケとなるかもしれない。協力(敬称略)
上嶋爽禄園、株式会社すぎもと、株式会社宮幸、北建材店、茶舗円通、AOIOA(芦内晋、西川元晴)、小畔夕、岸田吉博、高田幸人、富永一真、八木梓、山内秀明