田中 良佑

TANAKA Ryosuke

田中 良佑

1990年 香川県生まれ。
東京都在住。東京藝術大学大学院修士課程美術研究科壁画専攻修了。
「社会の中のそれぞれの『私』」という言葉を大切に、この世界で生きるそれぞれの人生の可能性を探る。
「社会の芸術フォーラム展/躊躇」(2016)「国立奥多摩映画館」(2016)「西荻映像祭 2017– 不可分な労働と表現–」(2017)「美学校・ギグメンタ2018/ 明暗元年」(2018)

  • 夜が嘆きに包まれても

    田中の作品は京丹後の味土野地区に幽閉されたというキリシタン「細川ガラシャ」伝説からインスピレーションを得て制作されています。映像には田中が「細川ガラシャの絵」を背負って暗い味土野の山奥を歩いているのが写されています。絵の影が草木やコンクリートの地面に落ちて、寂しげな雰囲気を醸し出していますが、どこか幻想的でもあります。映像では誰かが喋っている声が聞こえますが、これは田中自身が「歴史小説に書かれたガラシャのセリフ」と、味土野に現在暮らしている女性の言葉を音読している声です。細川ガラシャは様々な歴史小説の中で、山奥で孤独と対峙する聖女として繰り返し題材として扱われて来ました。また味土野という山村も、大積雪の末に元々の住民は全て集団移転してしまった過疎地域です。田中はそのような味土野に1人の元シスターが移住していることを知り、味土野に長く滞在する他、ガラシャ伝説に関する歴史小説を調べ始めました。そして小説の中で描写される「ガラシャの孤独」に、それぞれの著者の自己投影が重ねられていることに気がつきます。また、現在味土野に暮らしている女性の言葉にも、小説に描写されるガラシャの心象に重なる部分があると気がつきます。この作品は、歴史小説におけるガラシャや元シスター言葉を抜き出し、言葉同士を積み重ねることで「孤独とはなんであるのか?」ということについて考えるという内容です。あくまで歴史上の人物に過ぎないガラシャですが、田中はガラシャの影を通じ、ガラシャと人々に時間を超えた対話をもたらせているのです。またタイトルの「夜が嘆きに包まれても」という言葉は、シスターの思い入れのある聖書の一節から引用されています。

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