京都:Re-Search フォーラム 2018


2019.1.12

会場:京都文化博物館 別館

「Re-Search」をキーワードとした、アーティスト・イン・レジデンス事業「京都:Re -Search」「大京都」を府内各地で取り組んでいく。これは、府内各地に眠る“タカラ”を掘り起こし、アートの“チカラ”を介して、新たな価値観の発見や発信へと繋ぐ、地域の文化資源を生かしたプログラム。アーティストの目や力を通して、地域を観察し、地域主体で文化芸術活動に関わる環境づくりを促進し、地域のポテンシャルや魅力をアートの視点から引き出していく。
本フォーラムでは、アーティストのリサーチについて、また、その成果物としての作品やそのプロセスは地域に何をもたらすのかについて議論が深められた。アーティストたちが作品をつくるにあたり、「リサーチ(=思考)する」とは、自分自身は歴史や社会など、自分をとりまく様々な事象をどのようにとらえているのか、ということを見つめる機会である。未知のものに対しオープンマインドで関わるしなやかな態度、またリサーチの結果、光をあてたり、発掘したりしたものを組み合わせて編集するやり方は、実に示唆に富んでいる。今日におけるアート、アーティストからの地域のリサーチ(=思考)による作品制作の特徴や意義について考察された。


    第一部

    地域と向き合う ~アーティストのリサーチ~

    報告者
    SIDE CORE(アーティスト)、目【mé】(現代芸術活動チーム)
    モデレーター
    島袋道浩(美術家)

    まず、モデレーターの島袋道浩氏から「アーティストにとってのリサーチ」とは何かという説明があった。島袋氏の解釈では、歴史的にひもとくと、かつてセザンヌがサント・ヴィクトワール山に出向いて制作を行っていたように、昔からアーティストがその現場でリサーチをして、作品制作を行っていたという。そして島袋氏自身がなぜリサーチを元にした作品の制作や発表をしているかというと、レジデンスしている場所で、そこにあるものを使ってそこにいる人たちと作品を作りたい、このことが自分にしか出来ないと思うからだ、という。例えば、以前島袋氏がオーストリアのシュワッツのアートセンターに滞在してリサーチをした際、2,000メートル級の山がたくさん並んでいるにも関わらず、今なおその辺りでは貝やイルカの化石が取れるということを知った。オーストリア滞在の直後に中国の北京へ行った島袋氏は、魚やタコの形の凧を手に入れてオーストリアのシュワッツに戻り、その凧を揚げるという作品を発表した。土地の歴史を再確認するだけでなく、オーストリアと中国という国境を超えるイメージも提案できた作品となった。島袋氏は「こうしたアーティストがリサーチをして作品を作ることは、アトリエやスタジオにいたら出来ないことであり、自分にしか出来ないことがある」ので続けている、という。
    続いて、パネリストの目 【mé】から、これまでリサーチを元にした作品2点について、経緯とともに紹介があった。1つは、2018年に宮城県石巻市のイベント「リボーン・アートフェスティバル」で発表した作品についてである。東日本大震災直後から現地をリサーチしていた彼らが制作したのは、復興していく街を体感できる作品で、その制作プロセスや来場者からもらった感想を語った。もう1つは、栃木県にある宇都宮美術館で発表した大きなバルーン型の作品についてである。目 【mé】のメンバーが見た夢を元に、顔が描かれたバルーンを浮かべ、町のどこからでもそれが見られるという作品であった。地元の人達とどうやって関わったか、宇都宮市内に住む男性の顔を選ぶまでの苦労話といった、制作過程について話をした。
    そしてもう1組のパネリストであるSIDE COREから、同じく「リボーン・アートフェスティバル」で発表した、宮城県内の工事現場用品専門店とコラボレーションした作品について紹介した。SIDE COREが展示会場にしていたローラースケート場が途中から使えなくなったような、地域の人達と関わることの難しさや、リサーチした場所や発表した作品はやがて別の場所にも繋がることに気付くなど、リサーチに基づく制作、作品の多様性を説明した。

    第二部

    アーティストのリサーチは地域になにをもたらすのか

    パネリスト
    小田井 真美(さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)
    菅野幸子(AIR Lab アーツ・プランナー/リサーチャー)
    藤浩志(美術家)
    モデレーター
    大澤寅雄(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室文化生態観察)

    最初に、第一部の話を受けて、登壇者それぞれの感想を交換した。モデレーターの大澤寅雄氏は、アーティスト・イン・レジデンスは、自身が行う調査・研究とは異なり、リサーチ自体が作品になるという前提があること、地域にもたらすものやプロジェクトに対して、アーティスト側と地域側では誤解や裏切りが起こるという話があった。パネリストの小田井真美氏から、アーティスト・イン・レジデンスは短時間で制作をするためのリサーチや制作の場ではなく、長い時間を掛けてその場所や出来事と関わるためのプログラムになって来ているとのこと。また、パネリストの菅野幸子氏は、海外と日本におけるアーティスト・イン・レジデンスの意味や意義の違い、必ずしもアーティストに対して何か結果を求める必要はない、むしろアーティストにとっても、地域の人にとっても、お互いこれまで知らない視点をもたらすことが面白い点であると指摘した。パネリストの藤浩志氏は、アーティストとしての立場でアーティスト・イン・レジデンスに参加し、作品を制作・発表することはその地域に新しい価値をつくることである、と説明した。
    そして来場者も交えて、アーティスト・イン・レジデンスの体験・経験で起こった事例を発表し、共有した。例えば、制作・展示をした際に出たクレームとアーティスト、コーディネーターの関係性について。あるいは、リサーチがない上で地域と関わり、アーティストが作品制作をする大変さやそれをコーディネートするコーディネーターについて。これらは地域を問わず起こりうる問題ではあるし、担当者の考え方に依る部分であると同時に、地域とアーティストの関わりを考え直すきっかけにもなることである。
    こうした問題点を踏まえて、第一部のパネリストであるSIDE COREや目【mé】のメンバーも、地域とアーティストの関係について体験談を語った。
    さらに、地域で長年アーティスト・イン・レジデンスをしている来場者から、最近の事例や運営方法などが発表された。
    最後に、登壇者それぞれが全体を通した感想を述べた。大澤氏は、アーティスト・イン・レジデンスやアートプロジェクトが日本各地で行われることで、アーティストと地域が向き合い、お互いにもたらすもの、もたらされるものがあり、それらを交換することで厄介なこともあれば楽しいこともあると説明した。小田井氏は、アーティスト・イン・レジデンスが生ものであるからこそ、良き方向に転がるようにしたい、そうするとアーティストも地域も何かを得ることが出来ると話した。菅野氏は「京都:Re-Search」といっても北と南では文化も気候も違うからこそ、きちっとリサーチを位置づけてアーティストが作品制作できるアーティスト・イン・レジデンスにすべきだと提案した。藤氏は、アーティストが地域に増えて、もっと何かしていく人が増えたらいいと述べた。


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